大判焼き屋さんに並んだ日のこと〜一期一会|エッセイ
薄めの青空で、雲のないお天気の朝。
街の方に用事があったので、朝から出かけた。
用事が終わり、お腹が空いた私は、
近くに美味しい大判焼き屋さんがあったことを思い出し、少し歩いて買いに行った。
行ってみると、道沿いに20人くらいの大行列。
今日は時間もゆっくりあるし。というわけで、列に並んだ。
3分ほどすると、私の後ろに60代くらいのおばさんが並んで来られた。
(おばさん)「すごい行列ですね。いつもこんなに並んでいるんですか?」
(私)「はい、このお店はいつもこんな感じです。大人気ですね。」
(おばさん)「今日は、こちらの方に用事があって、久しぶりにこのお店に来たんですよ。ここの大判焼きが大好きなので、来れて嬉しいです。」
(私)「そうなんですね^^ 私もちょっと小腹が空いただけなのですが、それでも大行列に並びたいと思うほど、大好きです。」
(おばさん)「 あんこは黒あん派ですか?白あん派ですか?」
(私)「白あん派です^^」
(おばさん)「私も白あん派です^^」
(おばさん)「美味しいし、ケーキよりも(カロリーや健康的に)罪悪感なく食べられる気がします^^」
繰り広げられる、大判焼きトーク。
(私)「いい香りですね。」
(おばさん)「私、鼻が効かなくなっちゃったんですよ。昔、親の介護でいっぱいいっぱいで自分のことが後回しになっちゃって。早く病院に行っておけばよかった。若いうちは健康のことなどあまり気にしないだろうけどね、そういうのは早めに行っておいた方が良いよ。」
思ってもいなかった返答。
(おばさん)「やっぱり、鼻が効かないと寂しいもんだよ〜。」
と、教えてくれた。
においのない世界。
想像したこともなかった。
食べもののにおいをかいで「美味しそう」って思えることって、どれだけ幸せなことなんだろう。
においって、普段は意識していないけれど、
感情と密接に繋がっている。
花の香りをほのかに感じて、ふわっとした気持ちになったり。
コーヒーのにおいをかいで、ほっとしたり。
好きな人の首のにおいをかいで、安心したり。
雨上がりのコンクリートのにおいをかいで、昔を思い出したり。
酸っぱくなった食べもののにおいをかいで、危険を察知したり。
そんな体験ができていることへの感謝の気持ち思い出した。
(おばさん)「私は日ごろ、若い方と話す機会はほとんどないの。今日は話せてよかった。ありがとう。」
(私)「こんなにたくさんの人が並ぶ中、前後に並んで一緒にお話しできて、運がよかったです。ありがとうございました。」
そんな、大判焼き屋さんでの出会い。
一期一会のお話でした。
いつかふと、おばさんの鼻が効くようになる日が訪れますように。